ヒルベルト空間の備忘録
ヒルベルト空間の備忘録
1.コーシー列
定義1-1 コーシー列
数列がコーシー列であるとは、
(1-1) に対し、
が成り立つことをいう。
定義1-2 収束
数列がに収束するとは、
(1-2) に対し、
が成り立つことをいい、と表す。
定義1-3 有界
数列が上に有界とは、
ある数があって、
が成り立つことをいう。また、このような数の集合を上界といい、の最小の上界を上限といい、と表す。
数列が下に有界とは、
ある数があって、
が成り立つことをいう。また、このような数の集合を下界といい、の最大の下界を下限といい、と表す。
定理1-1 有界な単調増加数列と単調減少数列の収束
・有界な単調増加数列数列が上に有界であれば、は収束する。
・有界な単調減少数列数列が下に有界であれば、は収束する。
(証明)
※単調増加数列についてのみ
有界な単調増加数列数列が上に有界であれば、定義1-3により上限をもつ。は、最小の上界であるので、
に対し、
が成り立つ。そして、は単調増加なので、であれば、。したがって、
が成り立つので、⇒となり、収束の定義1-2より、
定理1-2 縮小区間の原理
閉区間の列{[ ]}が、任意のに対し、を満足するとき、[ ]。
とくに、のときは、[ ]は1点となる。
(証明)
端点の列は、単調増加で、上からはで抑えられている。ゆえに、定理1-1よりが存在する。一方は単調減少で、下からで抑えられているので、が存在し、は自明である。よって、閉区間[ ]が[ ]に含まれる。
とくに、のときは、より、となるので、[ ]=である。
定理1-3 収束する列はコーシー列である。
数列が収束する ⇔ 数列がコーシー列である。
(証明)
【収束⇒コーシー列の証明】
がに収束するのであれば、収束の定義(1-2)より、
に対し、
ゆえに、。したがって、
これはがコーシー列(定義1-1)であることを示している。
2.ベクトル空間・バナッハ空間・ヒルベルト空間
定義2-1 ベクトル空間
元・・・からなる集合が次の条件をみたすとき、ベクトル空間といい、その元をベクトル、またはベクトル空間の点という。
任意のに対し、和が定義されて、
(2-1)
(2-2)
(2-3)
(2-4)
定義2-2 ノルム
任意のに対し定義される次のような性質を持つ関数をノルムという。
(2-9)
(2-10)
(2-11)
また、ノルムが定義されているベクトル空間をノルム空間という。
定義2-3 バナッハ空間
ノルム空間の任意のコーシー列がの点に収束するとき、は完備であるという。
完備なノルム空間をバナッハ空間という。
定義2-4 内積空間とヒルベルト空間
元・・・からなるバナッハ空間が次の条件をみたすとき、内積空間という。
内積について完備な内積空間をヒルベルト空間という。
(2-11)
(2-12)
(2-13)
(2-14)
定義2-5 閉包と閉集合・開集合
(1)をヒルベルト空間とし、をの空でない部分集合とする。の元で、の点列の極限となっているものの全体をの閉包とよび、で表す。
これは、の収束列の極限をすべて集めてできる集合であり、となる。
(2)閉包をとっても変わらない部分集合、つまり、をみたす部分集合を閉集合という。
(3)補集合が閉集合となる部分集合を開集合という。
定理2-1 ヒルベルト空間の部分集合に対して、は閉集合である。
(証明)
とおくと、閉包の定義より、となる。
そこで、この逆の包含関係を示すせばよい。
とする。このとき、となるが存在する。したがって、任意のに対して、番号が存在して、ならば、が成り立つ。
また、であるから、をみたす点列が存在する。( )
したがって、
これは、を意味するからである。
よって、が示された。
定理2-2 ヒルベル空間の部分空間が閉集合であるための必要十分条件は、の任意の収束列に対して、その極限がの元になっていることである。
(証明)
【必要性】
を閉集合、、とする。このとき、であり、は閉集合であるので、である。よって、
【十分性】
の任意の収束列に対して、その極限がの元になっていると仮定し、の逆の包含関係を示す。(このとき、となるので、定理2-1によりは閉集合となる。)
とすれば、閉包の定義によって、となるが存在する。仮定により、である。
したがって、である。
定理2-3 直交分解定理
をヒルベルト空間の閉部分空間とする。このとき、任意のに対して、を満たすベクトルがただ一つ存在し、このを、の上へのの正射影という。
(証明)
とする。の定義より、となる点列が存在する。
このとき、
①
②
②より、
③
③を①に代入すると、
したがって、はコーシー列である。よって、となるが存在し、が成り立つ。は閉部分空間であるからとなる。(定理2-2により、点列の極限が集合でに収束すれば閉集合となる。)
次に、の一意性を証明する。
仮に、とは別にを満たすがあったする。上記の計算を、の代わりに、を用いて行えば、となる。
したがって、となる。
定理2-3 正射影定理
をヒルベルト空間の閉部分空間とする。このとき、の任意のベクトルは、という形に一意的に表される。ここで、はそれぞれ、の上へのの正射影である。
(証明)
とし、上へのの正射影をとする。とおけば、と書ける。そこで、を示す。
とおく。とする。このとき、であるから、
したがって、すべてのに対して、、これはを意味する。の代わりにてを用いれば同様にして、が得られる。したがって、であり、はの任意の元であったから、である。
次にの表示の一意性を示すために、別にと表されたとする。このとき、となり、この式の左辺はの元であり、右辺はの元である。ところが、であるから、でなければならず、となる。
3.ヒルベルト空間上の線形汎関数
定義3-3 有界線形作用素
をヒルベルト空間、をからへの線形作用素とする。定数が存在して、すべてのに対して次の関係が成り立つとき、は有界であるという。有界な線形作用素を、有界線形作用素という。
(3-3)
定義3-4 定義域と値域と零空間
作用素の定義される元の集合をの定義域、をの値域という。
を満たすすべての元の定義域をの零空間という。
定義3-6 作用素の単射・全射
・作用素が、であるようなに対して、であるとき、は1対1あるいは単射であるという。
・作用素がヒルベルト空間から(つまり、)の作用素であり、値域であるとき、を全射であるという。
定義3-7 ヒルベルト空間上の線形汎関数
ヒルベルト空間上の閉部分空間に属するすべてのとすべての複素数に対して汎関数が次の条件を満たす場合、このは上の線形汎関数という。
(3-4)
このをの共役関数といい、の集合で作られる空間をの共役空間という。
定義3-8 線形汎関数の有界性
ヒルベルト空間の部分空間に属するすべてのに対して、
(3-5) (= )
となるような正定数が存在するとき、線形汎関数はその定義域上の有界であると言われる。
この不等号がに属するすべてのに対して成り立つ最も小さい正定数は線形汎関数のノルムといわれ、によって表される。
(3-6)
定義3-9 線形汎関数の連続性
(1)線形汎関数がで連続とは、がに属し、各に対してのときはいつでも、となるようなが存在することである。
(では、不連続)
(2)に属する点列が極限をもつときはいつでもとなるとき、汎関数はで連続であるという。
(3)上のすべての点で連続は汎関数はで連続であるという。
定理3-1 原点で連続な有界線形汎関数はその全定義域で連続である。
(証明)
に属する任意の点列がに属するある点に極限をもつとする。
このときとなり、原点で連続であるという仮定より、となる。
仮定によりは線形であるから、で、原点において連続であるから、となり、は全定義域で連続となる。
定理3-2 線形汎関数において、有界性⇔連続性が成り立つ。
(証明)
【有界⇒連続】
が有界であるとする、有界の定義3-8よりある定数が存在して、
となる。したがって、のとき、となり、定義3-9(2)よりは連続である。
【連続⇒有界】
もし、が非有界であるなら、に対して
となるようなに属する非ゼロの点列が存在することになる。
すると、0に収束する点列はとなり、は0になりえず、原点における連続性に反する。
定理3-3 有界線形作用素の連続性
をヒルベルト空間からヒルベルト空間への有界線形作用素とするとき、次の(1)と(2)が成り立つ。
(1)()⇒()
(2)のとき、零空間は閉部分空間である。
(証明)
(1)の線形性と有界性により、
よって、であれば、であり、となる。
(2)となる。このとき、連続性により、となる。
一方で、であるため、であるので、。
よって、は閉集合である。なお、が部分空間であることは定義より自明。
定理3-4 リースの表現定理
ヒルベルト空間の全体で定義される連続有界線形汎関数は、に属するすべての元に対して、次のように内積の形で内の元と対応づけられて一意的に表すことができる。さらに、が成り立つ。
(3-7)
(証明)
まず、()の場合を考える。この場合は、とすれば、が成り立つので、が存在する。
次にの場合を考える。定理3-3(2)により、は閉部分空間であるから、正射影定理(定理2-3)により、零でないベクトルが存在し、が成り立つ。
よって、任意のに対して、はの元である。したがって、となる。
これを書き直すと、なので、を得る。
したがって、とすれば、となり、は存在する。
次に、の一意性を証明する。
別に、、をみたすが存在すると、となる。は任意であるから、特に、とすれば、なので、となる。