数学と物理学のブログ

本業から離れて、趣味である数学と物理学について書きます。

量子力学の軌跡解釈(ボーム力学)の概要

量子力学の軌跡解釈(ボーム力学)の概要1

1.はじめに

量子力学の軌跡解釈は、「ボーム力学」「存在論的解釈」「因果的解釈」「ドプロイ・ボーム解釈」等と呼ばれていますが、「隠れた変数の理論」としてあまり重要視されてていません。中には、既に否定された解釈と思い込んでいる人もいます。
しかし、軌跡解釈のような「隠れた変数の理論」は必ずしも否定されているとはいえず、一定の条件を課すことで、コッヘン・スペッカーの定理やベルの定理とも整合することができます。また、D.Borm も『THEUNDIVIDED UNIVERSE 』で述べているように、理解しやすさという点で標準解釈より優れた解釈になる可能性もあります。
なお、このような理解しやすさという利点から、分子動力学の分野では量子軌跡法という計算ツールとして軌跡解釈は用いられています。
この軌跡解釈の概要を運動学(電磁場を用いない)に限定し、私なりにまとめます。

2.シュレディンガー方程式の変形

軌跡解釈はシュレディンガー方程式

 -iℏ \frac{∂}{∂t}ψ(x,t) =\frac{ -ℏ^{2} }{2m}∇^{2}ψ(x,t)+V(x,t)ψ(x,t)     (1)

を変形するところから、スタートします。
シュレディンガー方程式(式(1))に、

ψ(x,t)≡R(x,t)exp(i\frac{S(x,t)}{ℏ})   (2)

を代入します。なお、R(x,t)及びS(x,t)は式(2)で定義される新たな実数の関数です。
すると、次のような2つの式が得らます。

 \frac{∂R(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{2m} {R(x,t)∇^{2}S(x,t)+2∇R(x,t)・∇S(x,t)}    (3)


 \frac{∂S(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{2m} {(∇S(x,t))^{2}-ℏ^2 \frac{∇^{2} R(x,t)}{R(x,t)}}-V(x,t)   (4)

ここで、次のような量子ポテンシャルという量を定義します。

Q(x,t)≡- \frac{ℏ^2}{2m} \frac{∇^{2} R(x,t)}{R(x,t)}   (5)

すると、式(4)は次のように表せます。

 \frac{∂S(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{2m} (∇S(x,t))^{2}-Q(x,t)-V(x,t)   (6)

式(6)で古典極限をとり、 ℏ⇒0 とした場合、式(5)より、 Q⇒0 となることから、


 \frac{∂S(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{2m} (∇S(x,t))^{2}-V(x,t)   (7)

これを古典力学における、ハミルトン=ヤコブ方程式とみなすと、一連のシュレディンガー方程式の変形式を違った視点で見ることができます。
つまり、ここでS(x,t)をハミルトンの主関数W(x,t)と等しいものと仮定すると、運動量 \boldsymbol{p}を、

 \boldsymbol{p} =∇W=∇S   (8)

とすることができ、式(8)を式(6)に代入すると、

 \frac{∂S(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{2m} (p)^{2}-Q(x,t)-V(x,t) =- \frac{1}{2m} (p)^{2}-Q(x,t)-V(x,t)  

両辺の∇をとると、

 \frac{∂∇S(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{m} ∇p・\boldsymbol{p}  -∇(Q(x,t)+V(x,t))  

左辺に式(8)を適用するとともに、速度 \boldsymbol{v} = \frac{ \boldsymbol{p} }{m}を用いて変形すると、


 \frac{∂\boldsymbol{p} }{∂t}=- ∇p・\boldsymbol{v}  -∇(Q(x,t)+V(x,t))  

右辺第1項を左辺に持ってくると、

 \frac{∂\boldsymbol{p} }{∂t} +∇p・\boldsymbol{v} = -∇(Q(x,t)+V(x,t))

さらに、 \frac{d}{dt}= \frac{∂}{∂t} + \frac{d\boldsymbol{x}}{dt}・∇ であることから、

 \frac{d\boldsymbol{p} }{dt} = -∇(Q(x,t)+V(x,t))    (9)

となります。
式(9)は、ポテンシャルV(x,t)に量子ポテンシャルQ(x,t)が加わっていますが、運動方程式と同じ形式です。しかも、古典的な極限 ℏ⇒0 とした場合、 Q⇒0 となるので正に運動方程式となります。


次に式(3)の両辺にR(x,t)を乗じて整理すると、

 \frac{∂R(x,t)^{2}}{∂t}=- \frac{1}{m} {R(x,t)^{2}∇^{2}S(x,t)+∇R(x,t)^{2}・∇S(x,t)}

となります。ここで、式(2)よりψ(x,t)ψ(x,t){*}=R(x,t)^{2}であるので、これをρ(x,t)とすると、

 \frac{∂ρ(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{m} {ρ(x,t)∇^{2}S(x,t)+∇ρ(x,t)・∇S(x,t)}

また、式(8)より、

 \frac{∂ρ(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{m} {ρ(x,t)∇\boldsymbol{p}+∇ρ(x,t)・\boldsymbol{p}}=- \frac{1}{m}∇(ρ(x,t)・\boldsymbol{p})

また、速度 \boldsymbol{v} = \frac{ \boldsymbol{p} }{m}を用いると、

 \frac{∂ρ(x,t)}{∂t}=- ∇(ρ(x,t)・\boldsymbol{v(x,t)})

よって、

 \frac{∂ρ(x,t)}{∂t}+ ∇(ρ(x,t)・\boldsymbol{v(x,t)})=0    (10)

となり、まるで流体の連続方程式のような形式になります。

これらの式は単にシュレディンガー方程式を変形しただけのもので、シュレディンガー方程式以上のものではありません。
これらに物理的な意味を与えることにより、軌跡解釈(ボーム力学)となります。

3.軌跡解釈の基本的な考え方

まず、2つの用語を定義します。

所有値:ある物理量を観測していなくとも系が所有していると考えらえる値
観測可能量(オブザーバブル):ある物理量を観測すると測定され得る値

所有値という概念は、標準解釈では、用いられることはありません。一方、観測可能量は標準解釈でいうオブザーバブルと同じ概念で、観測すると測定され得る値は、固有状態以外では、通常多数あります。なお、古典物理では所有値と観測可能量は一致しています。(古典物理で観測とは、所有値を測定することです。)

この所有値という概念を用いて、軌跡解釈は次の3つの公理で表せます。

【公理1】
物理系は個別系として、位置を所有値として有する粒子とそれに随伴するパイロット波ψによって表される。


【公理2】
パイロット波ψは、シュレディンガー方程式(式(1))に従って時間的に発展する。


【公理3】
パイロット波ψは、次のような関係により随伴する粒子の運動に影響を与える。

ψ(x,t)≡R(x,t)exp(i\frac{S(x,t)}{ℏ})    (11)(式(2)と同じ)

と定義したとき、質量mの粒子の運動は、

\boldsymbol{v}=\frac{1}{m}∇S(x,t)       (12)

という速度場に従って運動する。


4.軌跡解釈の展開

3.で提示された公理を出発点として、軌跡解釈は展開されます。

補題1】
シュレディンガー方程式(1)に式(11)を代入すると、次の2つの式を得られます。
※1.で導いたとおりです。

 \frac{∂R(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{2m} {R(x,t)∇^{2}S(x,t)+2∇R(x,t)・∇S(x,t)}    (13)(式(3)と同じ)


 \frac{∂S(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{2m} {(∇S(x,t))^{2}-ℏ^2 \frac{∇^{2} R(x,t)}{R(x,t)}}-V(x,t)   (14)(式(4)と同じ)


【命題1】
粒子の運動方程式は、次のようになる。
※1.で導いたとおりです。(式(9)と同じ)

m \frac{d^{2} \boldsymbol{v}(t)}{dt^{2}}=-∇(Q(x(t),t)+V(x(t),t))    (15)

ここでQ(x(t),t)は、

Q(x(t),t)≡- \frac{ℏ^2}{2m} \frac{∇^{2} R(x(t),t)}{R(x(t),t)}   (16)

で定義され、量子ポテンシャルと呼ばれる。


【命題2】
2m≫ℏ古典力学の適用範囲とみなせば、粒子の運動方程式は(式(15))は、量子力学古典力学のいずれにも適用できる。
(証明)式(15)より自明。


【命題3】
粒子の軌跡は、任意のある時間の位置を定めれば、一意に定まる。
(証明)粒子の運動方程式(式(15))が2階微分であることから、2つの初期条件が必要とさるが、【公理3】により、任意のある時間の位置x(t0)を定めるとその位置における速度v(x(t0),t0)も定まるため、任意のある時間の位置x(t0)を定めれば粒子の軌跡x(t0)は一意に定まる。


【命題4】
粒子のエネルギーE は、

E=-\frac{∂S(x(t),t)}{∂t}   (17)

となる。
(証明)古典力学で行うのと同様に、粒子の運動方程式(15)の両辺にdx/dtを掛けて積分すると、

\frac{1}{2}mv^{2}+V+Q=C (Cは定数)

となり、これがエネルギーを表すと考えられる。そして、式(12)によりvを消去すると、

\frac{1}{2m}(∇S)^{2}+V+Q=C

となる。【補題1】の式(14)で、左辺より∇Sを消去すると、

-\frac{∂S}{∂t}=C=E


3.存在確率

初期状態x(t0)を定めると運動方程式を解くことにより、その後の軌跡x(t0)が定まります。ここで考えているのは1 粒子系であるため、1つのパイロット波ψに対して見出されるのは1つの軌跡ですが、全く同じパイロット波ψを多数用意し、それぞれに随伴する粒子に初期状態x1(t0),x2(t0),x3(t0),x4(t0),x5(t0),x6(t0)・・・を定めると、それぞれの軌跡x1(t),x2(t),x3(t),x4(t),x5(t),x6(t)・・・・が定まることになる。そして、こういう軌跡をあらゆる初期状態について求めて、重ね合わせることを考えてみると、粒子の存在確率(密度)という概念が浮かび上がります。
ただし、ここでいう存在確率は個別系についての存在確率ではなく、全く同じパイロット波ψをサンプルとして多数用意した場合に、ある単位体積に粒子が存在する個別系の数がどの程度であるかを示すものです。例えば、基底状態の水素原子を無限個用意し、それぞれについて電子の原子核からの距離(r)を測定して、r を横軸、存在したサンプルの数を縦軸にプロットした結果のようなものです。従って、このようにして求められる存在確率は、パイロット波ψの全体的な統計を示すものであり、個別系の性質を表すものではありません。しかし、このようなパイロット波ψで構成される量子ポテンシャルによって粒子の運動は影響された結果として粒子の存在確率はψψ*となるため、無数に存在するサンプルに影響されると考えざる得なくなります。簡単に言えば、統計的な性質は試行の結果から得られるものですが、統計的な性質(存在確率がψψ^{*})を作出するために量子ポテンシャルが運動に影響するということです。
さて、全く同じパイロット波ψに随伴する粒子の運動を調べることは、【公理3】より、式(12)の速度場v(x,t)に従う粒子の運動を調べることです。そして、そのような速度場のある位置に粒子を置き軌跡を求めることを、あらゆる位置について実施し結果を重ね合わせるということは、速度場v(x,t)に相互作用の無い連続流体を置き、その流れを調べることと同じことです。
そこで、流体力学で連続方程式と同形式で、存在確率の連続方程式も表されるはずです。

そこで、まず流体力学における速度場v(x,t)における密度ρ(x,t)は、次のような連続方程式となります。

 \frac{∂ρ(x,t)}{∂t}+ ∇(ρ(x,t)・\boldsymbol{v(x,t)})=0    (18)

これは1.で導いた式(10)と全く同じ形式です。式(10)を導くにあたっては、ψ(x,t)ψ(x,t){*}=R(x,t)^{2}=ρ(x,t)という関係を利用しています。
このことから次のような【公理4】を置くことにします。なお、この公理の前段は標準解釈と一致しますが、後段は異なります。

【公理4】
式(11)におけるRの自乗(R^{2})を規格化すれば、パイロット波ψに随伴する粒子の存在確率を表すが、この存在確率は個別系における存在確率ではなく、アンサンブル(統計集団)の意味での存在確率である。
(理由)
・式(10)は流体力学における速度場v(x,t)における粒子密度の連続方程式式(18)と同形式である。
・式(10)は相互作用のない連続流体における式(18)と同様に、同じ速度場v(x,t)にある1粒子系を無数に相互作用なく、ただ重ね合わせて得られたと考えられる。


この【公理4】により、シュレディンガー方程式の解であるψについて、ψψ^{*}を求めるとアンサンブルの意味での存在確率を求めることができるが、これは個別系の存在確率を記述するものではないということになります。

【命題5】
ψは個別系を表すことはできない。
(証明)
ψψ^{*}は粒子の存在確率ではあるが、【公理4】より、これは全く同じ系を無数に集め、ある位置に粒子がある系がどれくらいあるかを示すだけで、個別系についての情報を含んではいない。


4.エネルギー定常状態

まず、標準理論と同等に、エネルギー定常状態を定義すると、
エネルギー定常状態=Rが時間依存せず かつ エネルギーが一定
ということになります。


補題2】 t=t_0R=R(\boldsymbol{x},t_0) とすると、Rの時間発展は次のようになる。
  R(\boldsymbol{x},t)=R(\boldsymbol{x},t_0)exp(-\int^t_{t_0}\frac{ \boldsymbol{∇}・\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t') }{2}dt')  (19)

(証明)
式(13)より、   \frac{∂R(x,t)}{∂t}+∇R(x,t)・∇S(x,t)/m=- \frac{1}{2m} {R(x,t)∇^{2}S(x,t)}
式(12)を用いて、∇S(x,t)/mを消去すると、

 \frac{∂R(x,t)}{∂t}+∇R(x,t)・\boldsymbol{v}(x,t)=- \frac{1}{2} {R(x,t)∇・\boldsymbol{v}(x,t)}

そして、両辺をR(x,t)で除して、log(R(x,t))偏微分により、

 \frac{∂log(R(x,t))}{∂t}+∇log(R(x,t))・\boldsymbol{v}(x,t)=- \frac{1}{2} {∇・\boldsymbol{v}(x,t)}

そして、\frac{d}{dt}=\frac{∂}{∂t}+\boldsymbol{v}・∇という関係式を用いると、

 \frac{dlog(R(x,t))}{dt}=- \frac{1}{2} {∇・\boldsymbol{v}(x,t)}

ここで、tt'に置き換え、t_0≦t'≦tの範囲で定積分をすれば、式(19)が成り立つことがわかる。□


【命題6】
エネルギー定常状態では、次の関係式が成り立つ。

      \boldsymbol{∇}・\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t)=0   (20)

(証明)
エネルギー定常状態の定義より、Rは時間に依存しない。従って、【補題2】の(19)において、

\int^t_{t_0}\frac{ \boldsymbol{∇}・\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t') }{2}dt'=0

が成り立つ。よって、\boldsymbol{∇}・\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t)=0 □

【命題6】より、エネルギー定常状態では速度場の生成が無いことがわかります(電磁気学における定常磁場の関係式\boldsymbol{∇}・\boldsymbol{B}=0 を考えてみよ。さらに定常磁場におけるポテンシャルと磁場の関係とのアナロジーから、式(12)は、速度場がS(x,t)=一定という曲線に対して垂直であり、S(x,t)の勾配×1/mが速度場であることを意味し、S(x,t)が速度場のポテンシャル(※)と考えることができる。)。
(※)「ポテンシャル」というものの、力学的な位置エネルギーとは異なることに注意


【命題7】
エネルギーEのエネルギー定常状態におけるS(x,t)は、次の形式であることが必要十分条件である。
     
     S(x,t)=Et+Λ(x)+定数   (21)

     ∇^{2}Λ(x)=0   (22)

(証明)
定義より、①Rが時間依存せず かつ ②エネルギーEが一定であれば、エネルギー定常状態である。
必要性:①については、【命題6】及び式(22)より、∇^{2}S(x,t)=0であることから、式(21)の形式では直ちに式(22)が成り立つ。
②については、【命題4】の式(17)より、S(x,t)の形式は式(21)の形式となることが自明。
十分性:式(17)より、式(21)の形式では、エネルギーEが一定となることが自明。
式(22)より、式(21)の形式では、∇^{2}S(x,t)=0であることがわかる。このことから、【命題6】と式(12)より、Rは時間に依存しない。


5.運動量定常状態

まず、運動量を定義すると、

\boldsymbol{P}(\boldsymbol{x},t)≡\boldsymbol{∇}S(\boldsymbol{x},t)=m\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t)      (23)

となります。
そして、運動量定常状態とは、\boldsymbol{P}(\boldsymbol{x},t)が一定の状態です。


【命題8】
運動量定常状態では、次の関係式が成り立つ。

{∇}^{2}S(\boldsymbol{x},t)=m\boldsymbol{∇}・\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t)=0 (24)

(証明)
運動量の定義(式(23))と運動量定常状態の定義より自明□


【命題9】
運動量定常状態では、Rは時間に依存しない。(R=R(\boldsymbol{x})が成り立つ)

(証明)
【命題8】の式(24)より、運動量定常状態では、m\boldsymbol{∇}・\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t)=0が成り立つ。
また、【補題2】の式(19)より、R=R(\boldsymbol{x},t_0)。これは、Rは時間に依存しないことを意味する。□


【命題10】
エネルギー定常状態かつ運動量定常状態で、次の関係式が成り立つ。
これは、∇R(x)^2vが直行することを意味し、【公理4】によるパイロット波の勾配と随伴する粒子の速度が直交することを意味する。

 ∇R(x)^2・v(x)=0   (25)

(証明)
式(13)におけるSを式(12)を用いて、vで書き換えると、
 \frac{∂R(x,t)}{∂t}=- \frac{1}{2} {R(x,t)∇・v(x,t)+2∇R(x,t)・v(x,t)} 
となる。
また、【命題6】の式(20)より右辺の第1項は0となり、【命題9】より左辺は0となるとともに、右辺も時間に依存しなくなるから、
 ∇R(x)・v(x)=0 が成り立つ。偏微分の性質から、 ∇R(x)^2・v(x)=0が成り立つ。□


【命題11】
エネルギー定常状態かつ運動量定常状態では、次の関係式が成り立つ。
なお、エネルギー定常状態の定義より、Eは一定である。

 E= \frac{1}{2}mv^{2} - \frac{1}{2m} ℏ^{2} \frac{∇^{2} R(x)}{R(x)} +V(x)   (26)

(証明)
式(14)に式(17)を適用し、Sを式(12)を用いてvで書き換え、【命題9】よりRが時間に依存しないことから式(26)が導かれる。


式(26)において、v=0とすると定常状態におけるシュレディンガー方程式と同じ式にはなりますが、この解釈は標準解釈と大きく異なるものとなります。
例えば、式(26)でv=0としてV(x)をクーロンポテンシャルとすれば、Rは水素原子の波動関数となります。
標準解釈では、この波動関数の自乗が電子の存在確率の密度を表しているとはしていますが、原子核の周りを周回するという古典的なモデルのイメージがどこまでも付きまといます。
しかし、式(26)ではv=0としているため、水素原子の電子は静止しているという結論になります。古典的な水素原子モデルでは、電子が加速運動をすると電磁波を放出して、やがては原子核に落ちてしまうと点が問題視されましたが、電子が静止しているのなら、このような問題は生じません。
では、軌跡解釈ではなぜ電子は静止することができるのでしょうか?
式(26)でv=0で、エネルギーが一定ということは、

      一定= - \frac{1}{2m} ℏ^{2} \frac{∇^{2} R(x)}{R(x)} +V(x) = Q(x)+V(x)

ということです。なお、Q(x)は式(16)の量子ポテンシャルです。
つまり、ポテンシャルによる変化を打ち消すように量子ポテンシャルがあるため、エネルギーが一定となるのです。
式(15)の運動方程式を見てみると、粒子が加速されない様子をよりリアルに見ることができます。

    m \frac{d^{2} \boldsymbol{v}(t)}{dt^{2}}=-∇(Q(x(t),t)+V(x(t),t))    (15)

 Q(x)+V(x)が一定であるため、式(15)の右辺が0となり、粒子は加速されないのです。

なお、ここで粒子が静止しているというはあくまで所有値としての話ですので、実際に速度や運動量が0の粒子が観測されるかはまた別の問題です。
これは、観測の理論としてまた取り上げたいと思います。

    













  

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