数学と物理学のブログ

本業から離れて、趣味である数学と物理学について書きます。

量子力学の軌跡解釈のガウス関数への適用

量子力学の軌跡解釈のガウス関数への適用

量子力学の軌跡解釈(ボーム力学)の概要 から数式を引用することがありますが、その場合は「概要(3)式」のように表記します。

1.ガウス波束

位置x=x_0を中心とし、運動量の平均がћk_0(k_0は波束を表します)で、位置の広がりがΔxである一元のガウス波束の波動関数Ψ_0は、

    Ψ_0 ∝\int_{-∞}^{∞}exp{{-(k-k_0)^2(Δx)^2+ik(x-x_0)}}dk       (1)

となります。なお、概要(5)式で定義されたように量子ポテンシャルは、

    Q(x,t)≡- \frac{ℏ^2}{2m} \frac{∇^{2} R(x,t)}{R(x,t)}   (2)

という形なので、規格化定数に依存しないため、比例関係(∝)だけを用いて記載しています。
式(1)の形から明らかなように、これは自由粒子の運動量ћkの固有状態φ_k=exp(ikx)をすべて重ね合わせた波動関数です。固有状態の重ね合わせであることを、強調して記載するなら、c_k=exp{-(k-k_0)^2(Δx)^2-ikx_0}とし、k積分Σで置き換えれば、

    Ψ_0 ∝\sum_{k}c_kφ_k    (3)

となります。
さて、自由粒子の質量をmとすれば、運動量ћkの固有状態φ_k=exp(ikx)のエネルギーはE_k=ћ^2k^2/2mとなります(定常状態のシュレディンガー方程式に代入すれば直ちにわかります)。
従って、時間に依存する重ね合わせの状態(非定常状態)は、

    ψ(x,t) ∝ \sum_{k}c_kφ_kexp(-iE_kt/ћ)=\sum_{k}c_kφ_kexp(-iћk^2t/2m)    (4)

再び、Σ積分に置き換えると、

    ψ(x,t) ∝\int_{-∞}^{∞}exp{{-(k-k_0)^2(Δx)^2+ik(x-x_0)-iћk^2t/2m}}    (5)

となります。
式(5)の積分を計算するためには、

    \int_{-∞}^{∞}exp{-a^2x^2+ibx}dx=\frac{\sqrt{π}}{a}exp(- \frac{b^2}{4a^2})   (6)

という公式を用います。すると

ψ(x,t)∝exp(-k_0^2(Δx)^2)\frac{\sqrt{π}}{\sqrt{(Δx)^2+iћt/2m}}exp{-\frac{(x-x_0-2ik_0(Δx)^2)^2}{4((Δx)^2+iћt/2m)^2}}
=\frac{\sqrt{π}exp(-k_0^2(Δx)^2)}{\sqrt{(Δx)^2+iћt/2m}}exp{-\frac{(x-x_0)^2(Δx)^2-2tћk_0(x-x_0)(Δx)^2/m-4k_0^2(Δx)^6}{4((Δx)^4+ћ^2t^2/4m^2)}}
× exp{-i\frac{2ћk_0^2t(Δx)^4/m-(x-x_0)^2ћt/2m-4k_0(x-x_0)(Δx)^4}{4((Δx)^4+ћ^2t^2/4m^2)}}    (7)

のようになります。

さて、この式(7)を、概要(5)式及び概要(12)式

    ψ(x,t)≡R(x,t)exp(i\frac{S(x,t)}{ℏ})    (8)(概要(5)式)

    \boldsymbol{v}=\frac{1}{m}∇S(x,t)    (9)(概要(12)式)

に当てはめて、式(2)の量子ポテンシャルと運動量を求めます。
まず、式(7)は3つの因子の積からなっていますが、第1因子は、式(9)により運動量(mv)を求める場合も、式(2)により量子ポテンシャルを求める場合にも、無視して差し支えない項です。
その理由は、

    (Δx)^2+iℏt/2m=rexp(iθ)  (rとθはいずれも、実数とする)    (10)

とおけば、tanθ=\frac{iℏt}{2m(Δx)^2}r=\sqrt{(Δx)^4+ℏ^2t^2/4m^2}となり、式(7)に当てはめれば、

    R=\frac{\sqrt{π}exp(-k_0^2(Δx)^2)}{((Δx)^4+ℏ^2t^2/4m^2)^{1/4}}exp{-\frac{(x-x_0)^2(Δx)^2-2ћk_0(x-x_0)(Δx)^2/m-4k_0^2(Δx)^6}{4((Δx)^4+ћ^2t^2/4m^2)}} (11)

    S=-\frac{2ћk_0^2t(Δx)^4/m-(x-x_0)^2ћt/2m-4k_0(x-x_0)(Δx)^4}{4((Δx)^4+ћ^2t^2/4m^2)}-θ/2     (12)

となり、xに依存しない式(7)の第一因子は、運動量と量子ポテンシャルの計算結果に関係しないからです。

まず、計算が簡単な運動量を、式(9)により求めると、

    p=\frac{(x-x_0)ћt+4k_0((Δx)^4m}{4(Δx)^4+ћ^2t^2/m^2}    (13)

続いて、量子ポテンシャルを式(2)により求めると、

    Q=\frac{1}{m}{\frac{(Δx)^2-2(Δx)^4(x-x_0-ћk_0t/m)^2}{(4(Δx)^4+ћ^2t^2/m^2)^2}}    (14)

となります。
さて、式(13)は、時刻t=0x_0を中心とするΔxの中、つまりx_0-Δx/2≦x_1≦x_0+Δx/2という領域内に粒子があった場合に、その後ガウス波束の影響を受ける粒子の運動量を表しています。そして、ћk_0は、ガウス波束自体の運動量となります。
例えば、x_0=0、k_0=0.2、Δx=1、m=1、ћ=1(ハートリー原子単位系では、ћ=電子の質量=電子の電荷=光の速さ=ボーア半径=1となり、電子と同じ質量の粒子の運動を表す)とした場合に、t=0xの初期値を与えて運動の様子を表すと図1のようになります。

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図1を見るといずれの軌道もある程度時間が経過すると、一定の速度の収束することがわかりますが、このことは、式(13)を解けば容易に理解できます。
m=1としているので、運動量は速度と等しくなるため、式(13)は、

     \frac{dx}{dt}=\frac{(x-x_0)t+4k_0(Δx)^4}{4(Δx)^4+t^2}    (15)

という微分方程式になります。式(15)は、このままでは変数分離形にはなりませんが、特殊解としてx=k_0t+x_0が簡単に求まります。
これは、図1で初期値がx=0.0の場合に相当し、x=k_0t+x_0+f(x)とおいて、式(15)に代入すると、f(x)が求まり、

    x=c_1\sqrt{(t^2+4(Δx)^4)}+k_0t+x_0    (c_1は定数)   (16)

となります。
ここで、再び式(16)を微分すると、

    \frac{dx}{dt}=\frac{c_1t}{\sqrt{(t^2+4(Δx)^4)}}+k_0    (17)

となり、4(Δx)^4<<t^2では、

    \frac{dx}{dt}=c_1+k_0    (18)

なので、tが大きくなれば、速度が一定になることがわかります。
さて、t=0での粒子の位置x_1を初期条件として与えると、式(17)は定数c_1が求まりますので、

    x=\frac{(x_1-x_0)}{2(Δx)^2}・\sqrt{(t^2+4(Δx)^4)}+k_0t+x_0    (19)

となり、速度は、

    \frac{dx}{dt}=\frac{x_1-x_0}{2(Δx)^2}・\frac{t}{\sqrt{t^2+4(Δx)^4}}+k_0    (20)

となります。そして、4(Δx)^4<<t^2では、

    v=\frac{dx}{dt}≈\frac{x_1-x_0}{2(Δx)^2}+k_0     (21)

となります。ここで、x_1=x_0+Δx/2の場合とx_1=x_0-Δx/2の場合のvの差Δvを求めると、

    Δv≈1/2Δx       ∴ΔvΔx≈1/2

また、m=1であることから、

    ΔpΔx≈1/2

となりますが、これは不確定性原理を表しています。ガウス波束は、そもそもΔpΔx=1/2が成り立つものとして定義されていますが、軌跡解釈を介しても同様な結果が得られます。
ここで、注意しなければならないのは、ここでいう初期値は理論上利用できますが、実際に測定して知ることができないということです。我々は、一定の範囲Δxのどこかに粒子が実在するということは言えても、それがΔxのどこであるを実際に知ることができず、それゆえに式(19)によっても、その後の粒子の位置を特定することはできません。こういう意味で、軌跡解釈は古典力学と同じように因果的ですが決定論的ではないということができます。

2.ガウス波束の収縮

ガウス波束の量子ポテンシャルは(14)で与えられ、一見すると非常に複雑な形をしていますが、これを実際にグラフで表してみると、図2及び図3のような単純な形をしています。

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図2は、k_0=0の場合ですが、量子ポテンシャルの極大値が、時間とともに小さくなっていき徐々に平坦になっていることがわかります。これは、最終的にポテンシャルが一定となり、速度が一定の値に収束するという、式(18)の結論と一致するものです。なお、t=0xの絶対値が大きいと量子ポテンシャルの勾配も非常に大きくなっていますが、粒子は-Δx/2≦x1≦Δx/2の範囲にあるため、その影響を受けることはありません。

さて、量子ポテンシャルを表す、式(14)は、

    Q=\frac{1}{m}{\frac{(Δx)^2-2(Δx)^4(x-x_0-ћk_0t/m)^2}{(4(Δx)^4+ћ^2t^2/m^2)^2}}    (14)

で、これは位置と時間の関数になっていて、粒子の軌道を与えればその粒子が任意の時間にある位置の量子ポテンシャルを与えることができます。つまり、式(19)のxを代入すれば、t=0x=x1にあった粒子が、任意の時間で影響を受ける量子ポテンシャルを求めることができ、

    Q(t)=\frac{(Δx)^2-x_1^2/2}{4(Δx)^4+t^2}    (22)

となります。同様にして、運動量(=速度:質量=1のため)も求まり、

    P(t)=\frac{x1-x0}{2(Δx)^2}・\frac{t}{\sqrt{t^2+4(Δx)^4}}+k_0   (23)

となり、これは式(20)と同じになります。この結果を、量子的なハミルトン-ヤコビ方程式である概要(14)式と概要(17)式に代入すると、任意の時間におけるエネルギーを求めることができ、

    E=-\frac{∂S}{∂t}=\frac{(∇S)^2}{2m}+V+Q=P(t)^2/2+Q(t)

\frac{1}{2}{\frac{(x_1-x_0)^2}{4(Δx)^4}\frac{t^2}{t^2+4(Δx)^4}+k_0^2+\frac{x_1-x_0}{(Δx)^2}\frac{k_0t}{\sqrt{t^2+4(Δx)^4}}}+\frac{(Δx)^2-x_1^2/2}{t^2+4(Δx)^4}

となりますが、ここで、t→∞とすると、

    E→\frac{1}{2}{\frac{(x_1-x_0)^2}{4(Δx)^4}+k_0^2+\frac{x_1-x_0}{(Δx)^2}k_0}=\frac{1}{2}{\frac{x_1-x_0}{2(Δx)^2}+k_0}^2   (24)

となります。このことは、速度が式(21)に従い一定となり、t→∞で量子ポテンシャルも→0になることからも当然の帰結です。しかし、連続的な変化でエネルギーが一定の状態になるというのは、非定常状態が連続的変化で定常状態に変化することを意味しており、標準解釈で波束の収縮に該当するものです。なお、ここでは敢えてエネルギーを用いましたが、運動量固有状態についても同様なことが言え、式(21)(m=1なので、速度と運動量は同じ)がこれを表しています。
標準解釈との違いをもう少し詳しく説明すると、ガウス波束式をΣを用いて記述すると、

     ψ(x,t) ∝ \sum_{k}c_kφ_kexp(-iE_kt/ћ)=\sum_{k}c_kφ_kexp(-iћk^2t/2m)    (25)

となります。標準解釈ではこれをψ_k状態の重ね合わせの状態とし、運動量の測定によりある1つの状態ψ_sに収縮すると考えます。この時、収縮の過程は、射影演算子により行われる非因果的で非連続的な変化とされ、測定をする直前までの状態は式(25)のままであるとされます。
これに対して、軌跡解釈は、どこにあるかはわからないにしても、図1のような軌道のどれかに粒子が実在しているものと考えます。そして、ある程度の時間(原子単位系では、t=1は光がボーア半径を移動する時間(a0/c)である)が経過すれば、式(21)により運動量(=速度)は一定の値にほとんど収束しており、観測する直前においても状態はψ_sであると考えることができ、非因果的で非連続な変化を避けることができます。さて、そうすると軌跡解釈では標準解釈でいう干渉のような現象が起こらないのかというと、そうではありません。図1で言えば、軌道が直線となっていない領域では、他の運動量固有状態との干渉が起きていると考えることができます。そして、各軌道が位置的に徐々に分離していくにつれて、干渉による効果が徐々に小さくなっていくのです。

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